オーガズムに達する器官というと、男性は通常ペニスのみですが、女性にはクリトリスと膣があります。さらに膣内は、Gスポットとポルチオの2種に分けられます。クリトリスは外陰部、つまり体の表面に露出しているため、触れる強さやスピードを調整しやすく、ほとんどの女性がここでオーガズムに至るとされています。特に自分の好きなように触れることのできるマスターベーションでは、絶頂まで昇りつめる確率はますます高まります。
世界26カ国の女性を対象に行ったアンケートでも、女性はセックスよりもマスターベーションでイケる確率が高いことが明らかになっています。とても敏感なクリトリスと比べると、膣でイクのは難しいようで、それを体験できる女性はごく少数です。このことは、アメリカの性科学者、アルフレッド・キンゼイが1948年と1953年に発表した研究結果 (キンゼイ・レポート) で報告されて以来、さまざまな調査によって裏づけされています。
クリトリスではイケる ― これはこれで、十分すぎるほどすばらしい体験です。そこには身体を満たしてくれる快感があり、気持ちの高揚があります。それにもかかわらず、クリトリスのオーガズムでは不服と感じている女性のなんと多いことでしょう。どうやらその背景には、膣のオーガズムはクリトリスでのオーガズムをはるかに上回るものだという思い込みがあるようです。
かの有名な精神分析学者のフロイト (1856~1939年) は、クリトリスのオーガズムは、ペニスに対する少女期特有の憧れの表れであり、成長するにしたがって膣でオーガズムを得られるようになると解釈していました。これは極めて根拠に乏しい説であり、当然、後世になって否定されましたが、クリトリスより膣のほうがオーガズムの快感が強いという考えはいまでも根強く残っています。
私自身は、この固定観念は男性主導のポルノグラフィやメディアによって作られたものと考えています。クリトリスだけで女性が満足感を得てしまっては、ペニスの出番がありません。これは男性にとって、とてもむなしく感じることのようです。その気持ちが「ペニスによって膣で得られるオーガズムこそが、最高の快感!」というイメージを作り上げたのではないでしょうか。
実際のところ、クリトリスのオーガズムと膣のオーガズムに優劣はあるのでしようか?
オーガズムの度合いは、その時々のシチュエーションや体調によって変化します。同じ程度での刺激を与えても、深いオーガズムを得られるときもあれば、あっさりとしたオーガズムで終わるときもあります。それゆえクリトリスと膣のオーガズムを横並びで比べるのは、非常に難しいことです。そこで、性科学の世界では神経解剖学の面からもオーガズムを解明するという試みがあり、その結果、種類の違うものであるという興味深い結論が導き出されました。クリトリスと膣 (Gスポット、ポルチオ) は三者三様の神経に司られています。ここで、それぞれの器官と神経、オーガズムの感じ方の違いをまとめましょう。
〇クリトリス ― 陰部神経によって支配されています。男性の亀頭や睾丸などにも、この神経がはりめぐらされています。クリトリスでのオーガズムの快感は、この神経を伝って、性器がある一帯に広がります。
〇Gスポット ― 下腹神経によって支配されています。ここでオーガズムを得ると、腰から下すべてに快感が走ります。
〇ポルチオ ― 迷走神経に支配されています。これは脳から直接出ている神経なので、イクと脳も刺激され、全身に快感が広がります。脳を直接揺さぶられ、全身が震えるような快感となると、膣 (ポルチオ) でのオーガズムに限られるようです。勝ち負けは一概に決められないとはいえ、膣でのオーガズムはまさに自分自身を見失ってしまうほど深くて、衝撃的な快感があるということでしょう。
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